トレイにそっと置かれたネックレスには、三十年分の時間が、やわらかく積もっていました。
「母から譲り受けたネックレスなんです。今度は、娘に渡したくて」
お持ち込みいただいたのは、パールのネックレス。パールとパールの間に地金のリーフモチーフが揺れる、華やかなデザインでした。ただ、長く身につけてこられた分、チェーンの一部が傷み、リーフのモチーフもところどころ失われていました。

欠けている、と見るか。空いている、と見るか。
手に取りながら、そんなことを考えていました。失われたリーフをすべて外してしまえば、すっきりとはする。けれどそれは、この子から何かを引き算するだけの答えのように思えたのです。
「このままでも素敵だとは思うんです。でも娘が着けるには、少し違う気がして」
普段づかいにもできて、結婚式のような場にも合わせられるように。何より、娘が着ける特別なものに。デザインは大きく変えず、次の世代へ繋げたい。そうご相談をいただきました。
答えが見えたのは、お嬢様が9月生まれだと伺ったときでした。
誕生石は、お守りです。
受け継がれていくジュエリーだからこそ、お嬢様ご自身のお守りを添えたい。9月の誕生石であるサファイアの中でも、青だけではない、さまざまな色をもつファンシーサファイアを。あたたかみのある色合いが、お嬢様の雰囲気にそっと寄り添うように思えました。
空いていた場所は、待っていたのだと思います。
失われたリーフの代わりに、ラウンドカットのファンシーサファイアをひとつずつ。どの位置に、どの色を置くか。石を並べては入れ替え、光にかざしては確かめる。歩くたびにパールと石が静かに揺れて、その揺れごと美しく見える配置を探しました。

お渡ししてからしばらくして、お客様からこんなお言葉をいただきました。
娘はたいそう気に入っており、友人の結婚披露宴などでつけているそうです。お友達に褒められることが多いらしく、なかなかないデザインなのでしょうね。三十年眠っていたパールが美しく生まれ変わって、嬉しく思います。
三十年眠っていたパールが、また次の三十年を歩き出す。
私たちがお預かりしているのは、ジュエリーそのものだけではありません。お母様がこれを選んだ日のこと。娘さんに渡そうと決めた日のこと。そのすべてを、次の手に受け渡すお手伝いをさせていただいている。だからこそ、一つひとつの判断に、理由を持ちたいと思っています。
パールネックレス リフォーム
アイテム:ネックレス
素材:K18YG
宝石:パール(お持ち込み)、ファンシーサファイア0.54ct
制作期間:1ヶ月半
デザイン:大森香菜江
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